コーチ・エィでは、コーチングを「目標達成に必要な知識、スキル、ツールが何であるかを棚卸しし、それをテーラーメイド(個別対応)で備えさせるプロセスである」と定義しています。

つまり、コーチングとは「自発的行動を促進するコミュニケーション」です。

コーチは相手に、 ・新しい気づきをもたらす
・視点を増やす
・考え方や行動の選択肢を増やす
・目標達成に必要な行動を促進する
ための効果的な対話を作り出します。ここで重要なのは、コーチがこれらを先導したり強制したりするのではなく、相手が主体性を持ちながらそれを実現するところにあります。

コーチングは、有名な学者がつくり出した理論でも、特別に新しい考え方や技術でもありません。もともと、人の力を自然にうまく引き出せるマネージャーや監督など、「ネイティブ・コーチ」と呼ばれる人々が行っているコミュニケーションや、うまくいっているチーム・組織でかわされているコミュニケーションを体系化したものです。

対話を重ねるコミュニケーションを通してコーチングを受ける対象者が目標達成に 必要なスキル・知識・考え方を備え、行動することを支援し、成果を出させるプロセスであり、人と組織の可能性を開くために、今リーダーやマネージャーに求められる能力です。


コーチングは今日、スポーツに限らず、教育、ビジネス、医療現場など多くの分野で活用されています。それに伴い、コーチングについての書籍やトレーニングも増え、そのイメージや解釈、プロセスについてもさまざまなものが紹介されるようになりました。

コーチングは、具体的にどのような考えに基づき、目標達成に向かっていくのでしょうか。「コーチングの3原則」「コーチングのスキル」「コーチングを活用する上でのマインド」は、コーチングの構造において、常に複合的に作用します。

コーチングの3原則

インタラクティブ(双方向)

「コミュニケーションは双方向で行われるものだ」と思っている人は多いですが、実際には上司が部下と話す場合、上司が話して、それを聞いた部下が言われたとおりにやるという、一方通行のコミュニケーションになっていることがよくあります。「私は考える人で、君は実行部隊だ」というように、権威や権限で従わせるやり方がその典型です。

しかし、そうしたやり方だけを用いていると、コンティンジェンシープラン(不測事態対応能力)の欠如という問題が起こりかねません。つまり、すべての事柄について上司にお伺いを立てないと、物事が回らない状況になってしまう恐れが出てくるのです。

起こった出来事に臨機応変に対応できるようにするためには、一方通行の指示を与えるだけではなく、相手にも意見を言わせるインタラクティブなアプローチが不可欠になってきます。

こうしたアプローチは、一見すると時間や手間がかかるように思われるかもしれません。しかし、それによって自律的に行動ができる部下や、新しいアイディアを生み出せる部下を育成できれば、指示を待たなくても動いてくれるので、トータルでは上司の時間の節減にもつながっていきます。

インタラクティブなアプローチは、より長期的な観点に立って部下の育成を促すものといえるでしょう。

オンゴーイング(現在進行形)

コーチングは一度受けたからといって、すぐにパフォーマンスが高まるわけではありません。継続して働きかけていくことで、徐々にパフォーマンスを向上させていく必要があります。3カ月のコーチングではそれほど変わらない人でも、1年間、できれば2、3年かけてコーチングを受けていくことで、必ず変化が見られるようになります。

特に重要なのは、コーチングセッションを受けた後に、職場に戻って実践し、その後、再びコーチングを受け、職場で実践するという繰り返しです。

1997年に行われたある研究結果(Baruch college researcher Gerald Olivero, K.Denise Bane, Richard E.Kopelman)によると、1回だけの研修では、マネージャーの生産性の向上は28%だったのが、その後、フォローアップやコーチングを入れた結果、生産性は80%まで上がったそうです。こうした結果からも、継続的に取り組むことの重要性を読み取ることができます。

行動変容は一日にして成らず。実践して、フィードバックを得て、結果を確認し、改善し、またフィードバックを得る。こうしたオンゴーイングな関わりによって、部下は少しずつ、しかし着実に変化していくのです

テーラーメイド(個別対応)

従来行われていた人材開発手法の一つに、全員に対してすべて同じ方法をとってきたことが挙げられます。しかし、人の価値観、考え方、行動パターン、物事の受け止め方、情報処理の仕方が多様化している現在、全員に同じ方法で教えても、必ずしも同じ効果が得られなくなってきているといえるでしょう。

コーチングは基本的に1対1で行います。個人差を無視して、一つのやり方を押し通したり、同じ言葉をかけたりしたところで、当然相手によって受け止め方は異なります。だからこそ、個別対応が求められるのです。

ある一つの例をご紹介しましょう。

米大リーグのトミー・ラソーダ元監督は、ドジャースの成績が低迷して経営が傾いているときに監督に就任し、チームを蘇生させたことで知られています。彼は選手のことをよく観察して、気づいたことは何でもメモするため、「メモ魔」と言われていたほどでした。

例えば、ある選手がヒットを打ったとします。ベンチに戻ってきたときに「good」と褒めたが、相手はニコリともしない。すると、ラソーダ氏はメモ帳を取り出して、「彼には『good』という言葉ではダメだ」と書きとめる。

次に、またその選手がヒットを打ったとき、今度は「great!」と声をかけてみる。彼が少しニコッとすると、「彼には『great!』という言葉のほうがよい」と書きとめる、といった具合です。

褒めて育てたり、叱って育てたり、といった単純なやり方ではなく、この選手はどのタイミングで、どのように叱ればいいか、褒めればいいかを冷静に見極め、個別に対応した結果、チームは見事蘇生したのです。

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コーチングのスキル

この3原則をベースにしながら、ある目標に向かって「質問」や「聞く」などのスキルを用いて、コーチングは行われます。特にビジネスシーンにおけるコーチングで重要なのは、目標を明確にしておくことです。コーチングを導入して、なんとなく業績を上げていこうという考え方では決してうまくはいかないでしょう。

会社が何を求めているかを踏まえて、その目標を達成するためにコーチングを活用していくことが大前提となるのです。

また、コーチングにおいては多種多様のスキルがありますが、コミュニケーションを通して相手の価値観や考え方を理解する際に、特に重要なのが「聞く」スキルや「質問」のスキルです。

コーチングのコミュニケーションでは、「質問」と「聞く」スキルを中心にしながら、さまざまなスキルを活用していきます。コーチングの3原則と各種スキルを対応させると、次のように整理することができます。

前提となる考え方 コーチングの3原則 コーチングスキル
マインド インタラクティブ(双方向性) 質問
聞く
ぺーシング
オンゴーイング (現在進行形) 承認
構造づくり
コーチングの戦略
テーラーメイド (個別対応) タイプ分け™
データベース
学習スタイル

まず、インタラクティブを促進するスキルとして、「質問」「聞く」「ぺーシング」が挙げられます。次に、オンゴーイングを促進するのが、「承認」「構造づくり」「コーチングの戦略」です。そして、テーラーメイドという観点で役立つのが、「タイプ分け™」「データベース」「学習スタイル」となります。

こうしたスキルは一朝一夕に身につくものではありません。継続的に学び、日々実践し続けていく中で、身についていくものといえるでしょう。

コーチングを活用する上でのマインド

こうしたスキルをマスターすれば、それでコーチングができるようになるかというと、それほど簡単ではありません。もう一つ、クライアントとの間に「信頼」に基づく「関係性」を構築するという大きなハードルが存在します。両者の間に信頼関係が構築されない限り、どれほどコーチングのスキルを駆使しても、クライアントは正直な気持ちを語ろうとはしないでしょう。

信頼関係を築いていくためには、自分以外の人の目標達成に関心を持ち、彼らが目標を達成するためにどのように支援し、どのように力を貸していくのかという姿勢である「マインド」を持つことが大切です。

コーチングを実践する上では、自分にとっての直接的な利害とは関係なく、純粋にその人のためになるか、成長を支援できるかという考え方、すなわち「マインド」が求められます。

求められる主なマインド
ビジョン提示力 メンバーに対して、会社のビジョンと仕事とのつながりを伝えている
信頼基盤 誰に対しても公平に振る舞っている
能力による影響力 自分の部署だけでなく、会社全体を考えて判断している
関わりによる影響力 メンバーの成功や成長を支援している

(出所:コーチング研究所「リーダーシップアセスメントの質問例」より作成)

例えば、あなたは、部下が成功したとき、素直にうれしいと思えるでしょうか? 人の目標達成を支援することを心から喜べない人は、コーチ的リーダーとはいえません。一方的に要求したり、ギブ・アンド・テイクを求めたりする関係ではなく、コントリビューション(貢献)、すなわち、相手からの見返りを求めずに、相手に何を提供できるかと考えることが大切です。

また、コーチングでは、クライアント自身が答えを見つけることを重視するので、自分のやり方や経験が絶対に正しい、という考え方は捨てなくてはなりません。

部下のリーダーシップを育てようという観点も重要です。「リーダーとしての視点」を養うためには、チームの中で、他者の目標達成に関心を持たせて、チーム全体の成長を考えようとするマインドを育てていく必要があるでしょう。

部下育成プロセスの中で、こうしたマインドを磨き続けることは、部下だけでなく、リーダー自身のさらなる成長の機会にもつながっていくことでしょう。


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