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部下の「部下自身に対する見方」をリフレッシュする

部下の「部下自身に対する見方」をリフレッシュする

「ピグマリオン効果」をご存知でしょうか?

教育心理学の分野で生まれたセオリーですが、マネジメントの領域でも時折耳にすることがあります。簡単に言えば、教育者の生徒に対する「見方」が、生徒の学習成果に影響を与えるというものです。

例えば、一方の教育者のグループに「あなたがこれから担当する生徒は天才の集団です」と伝える。本来は平均点の生徒なのに。

他方の教育者のグループには、「あなたがこれから担当する生徒は落ちこぼれの集団です」と言う。やはり本来は平均点の生徒なのに。

そうすると、前者の生徒は平均点を大きく上回る成績を収め、後者は平均点にすら届かなくなる。

このセオリーは、教育者側の「見方」が相手の学習成果に大きな影響を与えるということを示しています。

私の知る限り、ビジネスシーンでの実験やリサーチはありませんが、おそらく上司の部下に対する見方も、部下のパフォーマンスに一定の影響を与えているでしょう。

他者の「見方」はその人自身に取り込まれる

「The New Yorker」で興味深いリサーチ結果に関する記事を読みました。

スタンフォード大学での研究で、自殺した人の遺書を大学生に読ませました。半分は本物で、もう半分は適当に作った偽物です。

どの遺書が本物の遺書であるかを見分けるのが、生徒のタスクです。

生徒が見分けた後、実験者は一方の生徒のグループに、25件のうち24件正解したと伝えました。実際の正解数は全く無視して。

もう一方のグループには、10件のうち1件しか正解しなかった、と伝えました。こちらも、本来の正解数は全く無視して。

その後、実験者が伝えた正解数は嘘であったことを生徒に明かしました。その上で、自分たちの正解数はどの位だったと思うかを、生徒に尋ねました。

興味深いことに、24/25のグループの生徒は、「自分たちは平均よりもかなりできたと思う」と答え、1/10のグループは、「平均よりもずっと悪かったと思う」と答えました。

リサーチャーは結論付けます。

「一度形成されると、印象はずっと続いてしまう」
(Once formed, impressions are remarkably perseverant.)

他者からの「見方」によって形成された、自分自身に対する自分の「見方」は、なかなか取り払うことが難しいということを、この一文は示しています。

* * *

毎朝の通勤途中、小さな公園があります。そこでは、朝から、多くのお父さんと子供が野球の練習をしています。

その中に、ほぼ毎日来ている、若く精悍な顔をしたお父さんと男の子がいます。男の子は、小学校1年ぐらいでしょうか。丸くてクリクリとした目をしています。

お父さんがボールを投げる、子供がボールを打つ。

左打ちの子供は一生懸命、全身を使ってバットを振ります。お父さんは、額に大粒の汗を浮かべてバットを振る息子に向かって言います。荒れた口調で。

「おい!だからだめなんだよ!お前は。しっかり打てよ、バカ!」

毎朝、この光景を見ると少し胸が痛みます。

お父さんが投げかけるその「ネガティブな見方」が、その子自身の「自分へのネガティブな見方」を形成してしまいはしないかと。

その見方を自分に沈みこませることなく、打ち破って欲しいと願いながら、その場を通り過ぎます。

オールブラックスの「ネガティブな見方」を剥がしたのは何か?

ニュージーランド代表のラグビーチーム、オールブラックス。

その歴代勝率は86%以上。世界中のスポーツ全体を見渡してみても、「最も強い」チームと言えるそうです。

そのオールブラックスにも低迷期がありました。

2004年の8月に南アフリカに大敗し、南半球のラグビー強国3カ国でつくるトライネーションズ・トーナメントで最下位となります。

オールブラックスは自信を失い、選手は沈み込みました。

チームには変革が必要でした。

その時、オールブラックスの改革を担ったのが、ヘッドコーチのグラハム・ヘンリーです。彼が実践したのは、選手ひとり一人に「問う」ことでした。

自分たちにつけてしまった「ネガティブな見方」を、彼ら自らが打ち破ることが何よりも大事で、それには、「問う」ことだと。

「オールブラックスとは何か?」
「オールブラックスの一員であることの意味は何か?」
「ニュージーランド人であることは何を意味するのか?」

口角泡を飛ばして「オールブラックスは素晴らしいチームだ」「オールブラックスは素晴らしい伝統を持っている」と伝え説得するのではなく、「問い」かけたのです。

この変革の過程を表したジェイムズ・カーの著書『問いかけ続ける』には、「基本的な問いかけを繰り返す文化では、思い込みを断ち切ることにより、明快な結果に到達することができる」と書かれています。

グラハム・ヘンリーは、問いかけ続けることによって、選手が自分につけてしまった「ネガティブな見方」を剥がすことに成功しました。

オールブラックスはその後、ワールドカップ2連覇を果たし、テストマッチ(国と国同士の戦いのこと)18連勝という記録を打ち立てます。

ワイホ・キア・バータイ・アナ。へ・カハ・ウイ・テ・カハ。

「外側からの見方」は、いつしか「自分に対する見方」として内側に取り込まれ、沈みこみ、自分のパフォーマンスに影響を与えます。

「自分が自分をどう見ているか」こそが、パフォーマンスに大きな影響を与えるのです。

自分へのネガティブな見方。

これは、きっかけは外からのものであったとしても、最終的には、自分で打ち破るしかありません。

彼ら彼女らがそれを打ち破るために私たちにできることは、「大丈夫だ!」と伝え諭すことではなく、問いかけ、彼ら彼女ら自身が自ら新しい自分への見方を獲得できるように支援することなのかもしれません。

あなたの部下が、貼り付けられたネガティブな見方のせいでそのパフォーマンスを落としているとしたら、ぜひ問いかけてみてください。

「そもそも、あなたはどういう人なのか?」
「あなたが持っている力とは何か?」
「あなたが誇れることは何か?」

きっと、部下には、自らの「ネガティブな見方」を打ち破る潜在能力があると信じて。

ニュージーランドの先住民族であるマオリ族には、次のような言い伝えがあるそうです。

「問いかけを続けさせなさい。それがその人の能力になるから。」
(ワイホ・キア・バータイ・アナ。へ・カハ・ウイ・テ・カハ。)

【参考文献】
Elizabeth Kolbert , Why Facts Don't Change Our Minds
New discoveries about the human mind show the limitations of reason.
The New Yorker, February 27, 2017 Issue

鈴木義幸
このコラムはCoach's VIEW 「部下の「部下自身に対する見方」をリフレッシュする」からの転載です。

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