自分の演奏に自信が持てない生徒が一歩踏み出す
当時の吹奏楽部の生徒に、音大を目指している生徒がいました。その生徒はトランペットが専門だったのですが、よく、寂しげな表情でぼそぼそと「自分が何を表現したいか分からない...」と言っていました。そこで私はいろいろな角度から問いかけて、演奏について一緒に考えていきました。
具体的に、「どんな音色を出したい?」「この演奏の一番の山になる場所はどこ?」「この演奏に物語をつけるとしたら、どんな物語を描きたい?」「その物語には、どんな音が似合うだろう?」と、演奏全体を物語として見立て、各パートで切り分けるのではなく、全体から自分が出したい音色を探していきました。
すると驚くことに、音の命中率が上がり、どんどん演奏に表情がついていくような、説得力のある演奏に変わっていきました。
その生徒は音楽系の大学に合格したのですが、先生の関わりってどうだった?と聞いてみたことがあります。生徒は、「今まで先生に言われたポイントだけ練習してきたから、どんな演奏がしたいか聞かれるレッスンは初めてだった。最初は考えるのが大変だったけど、自分が表現したいことがだんだん分かってきて、先生と話すのも演奏するのも楽しかった」と言ってくれました。
自分がやりたいと思ったこと、出したいと思った音色の演奏をサポートする。私にとっても貴重な体験になりました。