部下の回答に正解を求めない
2016.8.15
上司のする質問の多くは、部下に「イエス」を言わせるためのものです。
たとえば、
「元気か?」
「はい」
「仕事は順調か?」
「はい」
または、自分の求めている答えに誘導するもの、そして、自分の不安を解消するための質問です。
「このところ、あまり私の言っていることが受け取られなくなっているように思うんだけど、どうだろう?」
「いえ、そんなことありませんよ」
それから、質問を使って相手をおとしめる。
「どうも私の求めている答えは、君からは得られないようだね」
それは、最初から正解をもって質問しているわけで、正確には部下を試しているだけです。また、質問をしながら結局は、自分の意見をそこで展開します。
「僕はこう思うんだよ」
と。これらを通して部下は学習します。
「適当に答えておこう」
「当たり障りのないことを答えておこう」
結局、上司は部下に、いいようにあしらわれるようになります。質問の質が低ければ、当然それなりの代償を支払うことになるのです。
コミュニケーションには、いくつかの原則があります。質問に関しては、質問をして、相手がどんな答えを返してきたとしても、まずは、「質問に答えてくれてありがとう」「このコミュニケーションに参加してくれてありがとう」、もし部下が自分に質問をしてきたなら、「質問をしてくれてありがとう」と感謝することです。毎回言葉にする必要はありませんが、その気持ちを伝えるような表情は必要です。
質問はテストではありません。評価でもありません。質問を通して、テーマをはっきりさせ、お互いへの理解を深めるためのものです。質問に対して正解の回答を求めてばかりいると、部下育成に失敗します。部下は質問に対して伸び伸びと、自由でいられる方が良いのです。正解だけを求められるようになると、部下は萎縮してしまうでしょう。
もし、顧客サービスの質を上げようと思うのであれば、サービスとは何かについて教えるのではなく、どんなサービスが求められているかを質問するのでもなく、どんなサービスしてみたいか、自由に何でもいいとしたらどんなサービスをしてみたいか、質問することです。
それに対して出てくる答えが、まるで使えないものだとしても、「どんなサービスをしてみたいか」ということについて心に留めるようになるだけで、サービスの質は変わってくるのです。
出典:伊藤守「部長講座」日経産業新聞